Mathematics of Social ChoiceのPart Iを読んだ
と言っても再読なので細かい証明は飛ばしたりしましたが、昨日の夜は近所の Bo's Coffeeにて6章まで、今日はSousPeakにて12章まで一気に読みました。 良い復習&頭のリフレッシュになりました。 SousPeakは全く関係ないですw
Mathematics of Social Choice: Voting, Compensation, and Division
- 作者: Christoph Boergers
- 出版社/メーカー: Society for Industrial and Applied Mathematics
- 発売日: 2010/01/21
- メディア: ペーパーバック
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第8章まではwinner selection methodsが満たすべきであると常識的に考えられる以下の基準
- principle of one person, one vote
- principle of independence of candidate names
- no-weak-spoiler criterion
- unanimity criterion
- monotonicity
を検討しながら、これらを満たすwinner selection methodsは結局のところbeatpath methodと a priori Smith-fair Borda countのみであることを示していく。 複数の候補者と投票者が存在し、投票者はすべての候補者に対する完全な選好をもっていることが 仮定されたのちに、ではどうやって単独勝者を選べばよいかを常識的な条件でもって絞り込んでいくので、 議論の運びが大変わかりやすかった。
第9章と第10章においてはそれぞれMuller-Satterthwaite定理とGibbard-Satterthwaite定理について述べられている。 これらは常識的なwinner selection methodsが満たすことのできない性質について述べたもので、 言うなれば集合的選択に関する不可能性についての定理といえる。 特に面白いのはGibbard-Satterthwaite定理で、これは「パレート効率で耐戦略性を満たす方法は独裁制だけである」 ことを示している。 ここで、「パレート効率」とは「投票者が全員一致で候補者Xを一位としていれば、Xは単独勝者になる」という性質を、 また、「耐戦略性」とは「投票者は戦略的に自分の選好とは異なる票を投じることで、投票結果を操作できない」という性質を意味する。 こういった常識的な性質を同時に満たすのは独裁制のみである、というのがGibbard-Satterthwaite定理の主張で、これは意外性に満ちていて大変面白い。
第11章と第12章は、単独の勝者だけでなく、候補者全体の順位を求めるためのranking methodsについて述べられている。 前者においては、winner selection methodsとranking methodsが1体1対応ではないことが示される。 また後者においては、有名なArrow's theoremについて述べられており、これがranking methods版のGibbard-Satterthwaite定理であること、 つまりArrow's theoremはranking methodsにおける不可能性定理であることが示される。
驚くべきことに第12章までに数式はほとんど出てこないので、英語さえ読めるなら高校生にもおすすめできる一冊(もちろん、論理的な推論方法に慣れている必要はある)。 各定理についての証明は必ずなされるので、天下り的な議論に萎えることもない。 さらに、練習問題も充実しており、この点においては和書より優れているといえる(練習問題付きの社会的選択理論の本って和書にはないですよね?)。 投票というと結果ばかりが注目されその手続に関しては無視されがちだが、選び方そのものについてまず考える必要があるということは、もっと強調されていいはず。 この分野の基本的な考え方や結果を背景知識ゼロで知ることができるので、大学生は読むべし。
一方で、不満もある。 というのは、「投票者は候補者全員を自分の選好をもとにランク付けできる」という仮定に関してなのだけど、 これってどう考えたって現実では成り立たない。だって、全候補者について調べるコストが高すぎるもの。 上述したような結果はたしかに面白いのだけど、この仮定を現実に照らして外したらどうなるかということは、 本書では触れられていない。 これでは、現実の選挙について深く考えたいと思ったときには、まだ不十分じゃないかと思う。 「複雑な設定について知りたいならもっと進んだ本でも読め」ということなのだろうけど、参考文献も載ってないし、この点はマイナス。
あと、上のことにも関連するけど、この本では候補者が人間であるという前提で話が進む。 でも、例えば「消費税を何%にするか」みたいな、連続的な値から一点を選択するといったことをみんなで決めようとしたら、 有限の候補者をランク付けするといった方法とは異なる方法が必要となるはず。 さらに発展させると、問題の争点の対象がどういったカテゴリーに属しているかに応じて 選択方法は異なるはずなのだから、「どういうふうにまず問題をカテゴライズし、それらに応じてどういった選択方法があるのか」というような 一つ上の視点から分類してもらえたりするとより有りがたかったと思う。
ところで、最近出版された坂井豊貴先生の
- 作者: 坂井豊貴
- 出版社/メーカー: 岩波書店
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も早く読みたいのだけど、電子書籍は出てない上に、今セブにいるので入手できない...